光帯の家

四方から視線が注ぐ三角形の敷地に、閉じつつ光を取り込む終の住処を計画。都会に鬱蒼とした緑の庭を設け、緑と日々移ろう光の帯を楽しめる住まいとしました。

Data

竣工年
2021
主要用途
住宅
工事種別
新築
構造・規模
木造・2階建て
敷地面積
139.45㎡
建築面積
71.56㎡
延床面積
77.41㎡
担当
鹿内健+小野寺理江
構造設計
TTSE株式会社
照明設計
ソノベデザインオフィス
施工
小川共立建設
写真
鳥村鋼一/鳥村鋼一写真事務所
動画
R1996株式会社

終の住処を作りたい

初めてお会いした際、施主はそう話されました。親族から相続した土地の使い道を、何度も考えたそうです。賃貸マンションにするべきか、収益性を考えてクリニックビルにするべきか。しかし三角形の敷地はハウスメーカーでは難しく、大規模建設は融資の制約もある。さまざまな模索の末、「自分たちの人生の最後を楽しむ家」を作ろうという結論に至ったとのことでした。

3度目の家づくり

後で伺ったのですが、家づくりは3度目だったそうです。最初の家づくりは希望をどう伝えればよいか分からないまま終わってしまったそうです。2度目は反省を踏まえて少し前進。3度目になると、伝え方も希望もシンプルになっていたといいます。「庭が欲しい。基本的にオープンなワンルームが良い。部屋ではなくコーナーが良い。デッキは必須ではないが、可能なら小さくても外でご飯を食べたい」などが主な要望でした。

背伸びをしない、等身大の暮らし

奥様はライフスタイル誌の編集者として長く活動されており、衣食住について豊かな経験をお持ちでした。建築家・清家清さんの自邸を「素晴らしかった」と話され、最後は背伸びをせず、等身大で自分たちが楽しめる家を目指していました。飼われている猫は、自由に外に出て、お腹が空けば戻ってきて、夜も寝るために帰ってくる。そんな自由さを家にも求めていました。一方で、敷地は周囲に気を遣う必要のある場所。この自由さと制約のギャップを感じながら、設計を進めました。

視線に囲われた三角形敷地

古地図を見ると河川が通っていたのかもと施主の息子さんが話されていた敷地は、バスや大型車が結構な頻度で通過する道路と生活道路に挟まれた三角形の形状でした。バス通り側は駅への通過導線になっており横断歩道もあるので、多くの人が行きかい、一時的に横断歩道で滞留する「人から見られる環境」です。敷地北東側は以前家具工場の倉庫が広がっていましたが現在は9階建てのマンションとなっており、エントランスを含め全てのバルコニーがこの土地の方向を見ている状態です。また道路の反対側には巨大なデータセンターや3階建てのガラス張りのオフィスがあるなど、感覚的には全方位から覗かれる環境でした。ただ南側に隣接する3階建ての建物は、一番最初に家づくりをした家でした。今回の家が完成した後には、息子さんや甥っ子、その友人たちが住む賃貸にリノベーションしようという話があったので、唯一開けるのは南側だと感じました。ただ3階建てなので冬季は大部分が日陰になる状況です。

光と距離のバランスを探して

現在は3Dモデルで日射の入り方を気軽に検討できますが、当時はまだアナログで周囲のマンションも含めて模型を作り、透明アクリルの箱に夏至・冬至・春分・秋分の太陽の動きを書き、その線に沿って太陽に模した光を当て、どのように光が移動するかを観察しました。その観察の中で、思いがけない発見がありました。三角形の先端——通常なら、狭くて使いにくいと判断される場所——こそが、敷地で最も光が当たる場所でした。南側の3階建ての建物からも距離があり、その先にも高い建物が建つ予定がない。条件としては、もっとも恵まれた場所が、敷地の最も使いにくい場所と重なっていました。この発見が、この家の設計の核となりました。一方で三角形の先端は部屋を作るには狭く、2つの道路が交差する場所となるので、外を歩く人との距離が近い場所になります。ただプライバシーさえ確保できれば、光を十分に活用できる場所になりそうだと感じました。一方、南側は三角形の末広がりの部分であり、十分な広さが取れるので庭の要望に応えられる場所となります。ただし、依然として暗くないか、という心配もありました。しかし、すべてが明るい必要はないのかもしれない。明るい場所と、日陰や木漏れ日になる場所が共存することで、敷地は多様な場所として豊かさを増していく。観察を続けるうちに、そう感じるようになっていました。

四角の部屋を置く

「基本的にオープンなワンルームが良い」という要望でしたのでLDKをワンルームとし寝室や水廻りを個室空間としています。その個室の四角い部屋を敷地南東側の道路境界線に沿って配置しました。これは北西の大通りから少しでも距離を確保したいという理由からです。三角形の敷地に沿って壁を配置し、四角い部屋をポツンと置くと、南側から「大きなスペース、部屋と道路に挟まれた三角形のスペース、部屋と2つの道路に挟まれた極小の三角形のスペース」と3つの場所が生まれます。この緩く繋がったオープンなワンルームを窓で区切って家を作りました。最終的には南から「庭+デッキ、リビング、ダイニング・キッチン」となっています。

自由に居場所を選べる庭とリビング

南側の大きなスペースは半分を庭、半分を屋根のあるデッキスペースとしています。
平面図では分かりにくいですがデッキの屋根は南側が高く、北側は低くしています。これは庭の樹木のために十分な日射を入れる理由と、雨の日でも外でご飯が食べられるようにと北側を低い軒下空間としたためです。街の気配を感じる南側の庭、交通量の多い道路側にありながらも壁と低い屋根で遮蔽されたデッキ空間、四角い部屋で少し道路から隠れたリビングなど、途中に大きな引き違いの窓はありますが、緩く繋がったオープンなワンルームとなっており、季節や天候で過ごしやすい場所を自由に選べる空間となっています。

移ろう光とともに、食を楽しむ

施主からは「食」にまつわる要望が当初から多くありました。また終の住処というテーマからもキッチン・ダイニングが重要な場所になる予感がしていました。収納が多く、素敵なワークトップ素材、最新の機器がある、大きなテーブルがあるということではなく、最後の晩餐ではないですが最後の最後まで「食事をつくって食べる」場所としてどのような空間であるべきか?ということを考えていました。最終的には「当たり前のことが楽しめるのが大切」だと考え、三角形の先端をダイニング・キッチンとしています。道路からのプライバシーに配慮して中2階とし、南東側の壁に沿って素朴なキッチンを造作でつくり(これは奥様が保管していたフランス片田舎のキッチン写真を参考にしています)、北側の壁に沿って四角い小さなテーブルを配置しています。テーブルが接する北側の壁に、リビング側から高窓を通じて南からの光が当たるように設計しています。季節が変わって太陽の高さが変われば、光の帯も変化していきます。そんな日の移ろいを見ながら、これからの日々を過ごして欲しいという想いを込めました。

狭さを感じさせない立体構成

「部屋が広い部分は、天井を低く」「部屋が狭い部分は、天井を高く」
というように、天井の高さと部屋の広さの強弱をコントロールしています。奥様が過ごすデイベットのある軒下空間は、この家で最も低い天井高さ1.9mとなっており、外ですが、低い天井高により室内のような親密な場所となっています。南側に3階建ての建物が迫っていることや天井が低いこともあり雨が吹き込まず、雨音を楽しみながら読書や食事ができる場所となっています。リビングの入口付近は広いですが、ダイニングに至る部分は四角い部屋との関係で階段に行くほど部屋の幅が狭くなっています。天井を高くすることで狭さを感じさせないようにしていますが、階段を上がることで再度天井が低くなります。ここでは敢えて天井を低く、幅を狭くして圧迫感を出していますが、すぐに天井高5mのダイニング・キッチンに至りますので「低から高」のギャップを出し、より高さを感じるように設計しています。この家で一番先端となるキッチンの端部は人が1人しか立てないほどの狭さですが、天井高が5mもあるので窮屈な印象を感じない場所となります。

Topics_01

外と内がつながる暮らし

東京の雑木林を目指して造園した庭ですが、最近では鬱蒼とした雰囲気になっています。屋根の高さを超えた植物が、照り返しと昨今の高温により先端が弱るそうです。もしかすると日当たりが全てではなく、今後は日陰となる場所も必要なのかもしれません。跳ね出した屋根と樹木で囲われた庭とデッキを、猫も犬もご夫婦も移動しながら暮らしているそうです。朝食はデイベットでコーヒーを飲みながら、デイベットで読書をしながらうたた寝をする。それが日課だと話されていました。

Topics_02

風と光を身近に

庭に面したリビングの大開口を開けると木陰の涼風が室内に入ってきます。北東のダイニングキッチンの一番高い部分はキッチンの天板から天井まで窓としていますが、最上部は電動開閉式の窓としています。この部分を開放すると室内の暖気が煙突効果で抜けていき、リビングの大開口から涼風が入るよう意図しました。実際に風の抜けを楽しんでいるようです。日射を受ける壁面は左官材で仕上げられており光の帯だけでなく曇天の穏やかな光も美しく反射してくれます。最初はキッチンの上に絵を飾ろうという話もありましたが「変化する光」そのものが見ていて飽きないものだと思います。

Topics_03

2つの寝室と、ほどよい距離感

四角い部屋は、夫婦それぞれの寝室となっています。コンパクトで天井も低めですが、逆に落ち着く空間として機能しています。設計時から意図していたことですが、二人の寝室の間にリビングとダイニング・キッチンを配置することで、夫婦のプライベートゾーンに、ほどよい距離感が生まれました。同じ家に住みながら、一人の時間と、二人の時間を、自然に行き来できる。終の住処として、この距離感は重要だったと感じています。

Special

Interview

日常の光や緑を楽しむ豊かさ。最後まで自分達らしく暮らす家

「光帯の家」紹介記事 |KLASIC 2025年5月