増減の家

神社の参道に面した敷地。敷地西側に広がる松や桜を活かしながら、高気密・高断熱の平屋の住宅を設計しました。断熱等級6による快適な内部空間だけでなく、屋外の居場所となる外の部屋、周囲の緑に連続した外構計画、西日の木漏れ日を感じる壁面など性能と情緒性を両立した家づくりを目指しています。

Data

竣工年
2024
主要用途
住宅
工事種別
新築
構造・規模
木造・平屋建て
敷地面積
217.39㎡
建築面積
86.92㎡
延床面積
84.46㎡
UA値
0.44
断熱等級
6(地域区分6)
C値・気密
0.3cm²/m²(中間時・完了時)
担当
鹿内健+鹿内真沙子
構造設計
TTSE株式会社
性能計算
Kizuki小泉木材
写真
©Yasu Kojima
動画
R1996株式会社

参道に連続した平屋の住宅

以前からの散歩道だった神社参道脇の大きな家が解体され、数日後に土地として販売されていました。このような環境ならば自邸を作りたいと思い、妻に「どんな家にしたい?」と聞いたところ、あれこれと家づくりの計画を練っていたわけではなかったので、シンプルに「平屋が良いかも。以前設計した扇垂木の家(鵠沼海岸の家)が良かったから」と。確かに周囲には緑が広がるし、参道も神社の広場も公園のような雰囲気なので地面に近い平屋はこの場所に合うと考え設計を進めました。

断熱等級6の暮らし

Sデザインファームでは2022年頃から本格的に高気密・高断熱の家づくりを行ってきました。設計中や引き渡し後に家にお伺いする機会がありますが、1年を通じて高気密・高断熱の家を体感してはいなかったので、自分自身の自邸で体感をしたいと思い、今回の自邸では断熱等級6、太陽光発電でZEHの住宅としました。数値を検証し、温熱環境をシミュレーションしながら設計をしています。

情緒性も大切にする暮らし

しかし断熱性能や数値を追いかけるだけの設計で本当に心地よい暮らしや、長い目で見た地球環境につながるのだろうかとも考えていました。Sデザインファームの「日常に、心おどる空間を。」というフィロソフィーでは、その場を過ごす人の琴線に触れる空間づくりを大切にしています。そのような数値で測れない情緒性——夕日、風、鳥の声、季節の手触り——を失った住宅は、たとえ省エネでも、住み手の愛着が続かず、やがて壊され建て替えられてしまいます。最も大きな環境負荷は、住宅を短いサイクルで建て替えることそのものです。長く愛され、長く住まわれること——情緒性に支えられたこの持続可能性こそ、数値の先にある本当のサステナビリティだとも考え自邸づくりを進めました。

神社の参道に面した敷地

風致地区で建ぺい率40%、道路や隣地からも後退距離が必要な土地です。周囲の家も神社の参道に面して緑化がされており緑豊かな環境でした。道路を挟んだ南側の家は2階建てと平屋でできており南からの日当たりも良くZEH住宅で必要な日射取得も十分可能な土地でした。参道下の街道が海岸線であったことから、周囲は松が植えられ春には桜が咲く環境であり、神社は地元の人達が朝夕の散歩をする場所となっています。静かな時間が流れた境内は、厳密に塀などで敷地境界を区切るよりも緩やかに区切る方が良いと考えました。

高断熱設計との眺望のバランス

高断熱の住宅設計には基本があります。南側には日射取得のために大きな窓を設置し冬場は太陽の光を内部に取り込みます。夏は庇やブラインドを用いて光が入らないように日射遮蔽をします。夏の冷房や冬の暖房利用を最小限にして電気代を抑えることがZEH(ゼロエネルギーハウス)に繋がるからです。一方で東面や西面は夏の朝日や夕日が横から差し込むので、窓は最小限にして壁にするのがセオリーです。そのような考え方で設計をすると、この土地は参道に対して壁を作るのが正解となります。その考え方だけで設計された家が本当に快適な家なのだろうか。断熱設計と眺望、双方の良い部分を活かすことが、この場所では必要なのではないかと考えました。

南と西に開いたLDK

参道側に大きなLDK空間をつくり、隣家のアプローチ空間となる東側は寝室群、南の道路側には洗面室と浴室を配置し、LDKは周囲の隣家から距離が取れる計画としました。平屋ということもあり無用に窓を設置すると室内が見えすぎてしまうので、東側と南側は部屋でブロックする考え方です。北側は隣家が同時期に家づくりをしており1階をリビングとする予定であったので極力窓を付けないようにしました。3方向を必要最小限の窓設置として、参道に面した西側に最大限大きな窓をつける設計としています。リビングは天井高さ3.8mと開放的な空間としていますが、寝室や水廻りは天井高さ2.1mと抑えめにすることで、寝室上部に荷物置き場となるロフトや洗面室と浴室の上には隣家を隠しつつ、空と参道の桜だけが見える南側の大きな高窓をつくり日射取得をしています。

外リビング

最初は30畳程度の大きなLDKにしようとしていましたが、設計を進めていく内に、全てを室内空間とするのではなく、外のような部屋になっても良いと考えました。室内を高気密・高断熱化する「増やす」取り組みにより室内の快適性は格段に向上しますが、外部環境と切り離された空間が本当に豊かな暮らしに繋がるのか?という想いもあったからです。そこで室内は16.4畳のLDKとして、外側に12畳程度の外リビングと呼ばれる場所を作りました。この外リビングを屋根のないデッキ空間としていたら、使わなくなっていたと思います。そこで室内と連続した屋根で覆い、上部はガラス窓を廻して周囲の緑は見えるが雨が吹き込まないようにしています。下部は壁や窓がある部分を「減らす」取り組みをして、建物をごそっとくり抜き、室内が残されたまま外化されたような空間としています。

居心地の良さをつくる

居心地の良い場所をつくることは、とても重要です。
外リビングにおける屋根と上部のガラス窓は、夏の強い日差しや雨の吹き込みを防ぎます。とてもシンプルなことですが、これにより家具など物を片付ける必要がなくなります。そのままスッと外リビングに行く、何かくつろぐための準備をしなくても良いのは利用のハードルを下げます。また外リビングの居心地を生み出すために、室内のようなペンダント照明を吊り下げ、周囲を緑の斜面で囲っています。この斜面は建設時に発生した残土を移設させ、芝生と上部に樹木を植えてつくりました。参道との間に斜面があることで少し囲われた落ち着きが生まれ、斜面の高い位置に樹木を植えることで室内から参道を歩く人が見えにくくなり、参道の先にある広場へと斜面が連続していきます。

安定した温熱環境と省エネルギー

断熱等級6としたことで、冬季でも室内は22℃程度となります。厳冬期は朝方に1〜2時間程度、エアコンで暖房を付けますが太陽の光が入ってくると室内は暖かくなりますので暖房が不要となります。夏季は日射が入ることで室温が上昇しますが、屋外が35℃以上の日でも弱運転のエアコンで25℃程度の室温が保てます。この家はガス設備を設けないオール電化住宅としていますが、太陽光発電の売電を加味した月額光熱費は8,400円程度となり、太陽光発電の投資回収は11.6年となります。(補助金を加味すると更に短くなります)

Topics_01

自然に近い外リビング

室内空間ではなく、コントロールされていない屋外空間であるため、暑さ寒さなど外的要因が如実に反映されます。ただ隣接するLDKは涼しく暖かいので、ちょっとした仕事や勉強、外での食事、サウナや外気浴など外を楽しむ機会が増えました。春の花見、雨の音や匂い、大雪を眺めるなど、ふとした瞬間に見せる自然の表情、鳥や隣家の犬など思わぬ来訪者、気がついたら居座ってしまった野良猫の子猫。出しっぱなしのスケートボードやバスケットボールや焚き火台など外部ならではの自由さがあります。そのようなコントロールしきれない、されきれない大らかさがあると思います。

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西日の木漏れ日

初夏から晩秋に掛けて西からの木漏れ日が室内の左官壁を彩ります。
薄塗り左官壁は室内のウォールナットやチーク材に合わせて僅かに赤色を入れたグレージュ色としていますが、西日の色とも相性が良いです。壁に移ろう葉っぱの影を見ていると暑さだけでない西日の儚さや味わいを感じます。

Special

Interview

建築家・鹿内健の自邸。SDGsに貢献し、快適で幸せな空気に満たされたZEH住宅

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